電子ラボノートっぽいものをChemdrawで自作する

Zürichは暑さのピークを越えた気がします。みなさんいかがお過ごしですか?

こちらも多少湿度が高く感じますが、日本とはもはや比べられないくらいには気持ちいい夏です。

ところで、化学の(以外もそうかもしれませんが)界隈では、in silicoだったりinfomaticsだったりをdry experiment, 実際に手を動かして反応を仕込んだり後処理したり、精製したりをwet experiment と呼んだりします。

先日からようやくwetの実験を日常的に行なっているのですが、会社でELN (E-Lab Notebook)を使っていた反動で、大学の手書きノートは非常に面倒に感じます。構造式から計算まで全て手書きなんて、ほぼ10年ぶりです。なんなら計算の仕方もいちいち考えないと正直自信ありません…。

そんな時、同じ部屋のMatthiasがいいことを教えてくれました。なんとchemdrawでELNと同じ計算が出来るんです。というわけで、今回はELNもどきの紹介です。運用に関しては後ほど提案しますが、意見が分かれる部分だろうと思います。

さて、まずはじめにPC環境です。

私はラボ支給のMacBook Pro 2017(多分)とChemdraw18.0 を使っているので、基本的にこれに準拠します。windowsやChemdrawの旧ver. で使えなかったらごめんなさい🙇‍♂️。ちなみに私の院生時代はこの機能を知らなかったので、以前はなかったように思います。少なくとも周囲や日本語のネットでは目にしたことはありませんでした。

今回使用するスキームのサンプルは、フリーで閲覧できるOrg. Synth. 201996, 232を使用します。反応自体は参考になりそうなものをチョイスしてます。

さて、まずChemdrawを開いてください。オススメの(と言うほどでもないんですが)テンプレートはACS Document 1996です。

続いてPage Setup(⌘+shift+P)でページを横向きにします。さらにDocument settingsでRawsを2段に指定します。この2つのセッティングは個人的に見やすいだけなので、省略しても構いません。ぱっと見でこんな感じになります.

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次に構造式を書きます。この際、試薬や溶媒は矢印左側に、目的物や生成物、中間体なんかは矢印右側に書きます。今回の文献はneatって書いてますが,練習として溶媒にTHFを使っているものとします.

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そして全選択(⌘+A)した後に、画面上部のStructureからAnalyze stoichiometricを選択すると、あら素敵なテーブルが出来上がります。

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選択した部分についてのTableが出来上がるので,中間体などの情報を一緒にTableにすることも出来ます.ここにそれぞれ試薬等量や試薬量、濃度や密度を適当に入力すると、必要量を勝手に計算してくれます。下記斜字体が入力した部分です.生成物に関しても、収量を入力することで収率計算してくれます。素晴らしいぃ…。基本的に1反応につき1ファイルで作成しておくといいと思います。後からスケールアップする時はファイルを複製して試薬量を直すだけです。次の反応に進むときも、複製したファイルからコピペで始めれば原料を書き間違える心配もありません。

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ついでに実験のフローチャートなんかも書けたりはしますが、実験の証拠を残すと言う意味で、大学などでは手書きの方がいいのではないかと思います。ELNの長所として、実験項などの記載変更ログが残せるので実験事実として扱えます。試薬を投入した時間やクエンチの時間も電子記録として残せるわけです。しかし今回作成しているcdxファイルには、そんな素敵な機能がありません。なので、実際私もファイルを作成した後にプリントアウトして、スキームとテーブルだけを切り出して実験ノートに貼り、実験項は手書きしています。

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仮にchemdraw上で実験項まで作成して、プリントアウト後に日時と署名だけ手書きした場合って実験記録として有効なんですかね?chemdraw上に実験項を残すメリットとして、後から実験ノートとして他のメンバーとの共有が簡単になります。最近は学内に大型のサーバーを持っていたり、boxやDropboxを使うラボもあるかと思うので、有用性が高められます。字が汚くて読めないなんてこともなくなるでしょう。PDF化しておけばPreviewだけで簡単に閲覧も出来ます。また、実験データも同じ場所に格納しておけば、後々便利なのは言うまでもありません。

 

如何でしょうか。ETHは研究資金的に日本よりも恵まれていると思いますが、それでもやはりノートの電子化までは予算が回っていません。しかし、企業と同様に人の入れ替わりはあるので、過去の実験記録を遡るニーズは確かに存在しています。私のような半ロートルにとっては、余計なエラーを減らして効率化を図るのにもELNは効果的だと思います。

ELNを未導入の方は、運用方法をよく相談しながら使ってみてください。