話題のXofluzaの変異をPymolで見てみる

抗インフルエンザ薬の新薬Xofluzaで耐性が確認されているとのことで、話題に乗っかって耐性株の変異をPymolを使って分子レベルで確認してみたいと思います。

ちなみに、Xofluzaの耐性株についての感染症学会のガイドラインこちら

 

僕はmacユーザーですが、基本操作はwindowsでもほぼ一緒です(会社のwindowsでも使ってるので確認済み)。

Pymolのmacへのインストールはこちら

ちなみに僕はhomebrewとかその辺はさっぱり分からず、@Ag_smithさんのお世話になりました。当時と中身が変わってる気がしますが、もちろんよく分かってません。

 とにかく、その節は大変お世話になりました。

マシンスペックはMBA2012midの4GB, SSDは256GBに増設してます。

あとで気付いたんですが、X codeがめっちゃ容量を食ってます。

動作自体は快適ですけどね。

 

さて、件の変異に関しては塩野義製薬から昨年既に報告があったそうで、PDBがすでに公開されています。

私用環境なので論文は読めませんが、PDB bankで検索して文献の構造情報をダウンロード出来ます。

今回はPDB bankでbaroxavirを検索して、出てきたPDB IDの6FS8, 6FS9, 6FS6を使ってみたいと思います。

 

まずはterminalでpymolと入力してPymolを起動します。

f:id:keetane:20190207223126p:plain

僕の11inch MBAではかなり見づらいので、ctrl+Eでexternal GUIをsplitします。

f:id:keetane:20190207223146p:plain

external GUIは閉じてしまっても、ctrl+Eでまた復活できます。

続いて、fetch PDB IDをコマンド入力してcifファイルを開きます。

僕はPDB IDだけ確認してPymolで直接ダウンロードしてますが、数が多い時はPDB bankから落とす方が楽かもです。

f:id:keetane:20190207223315p:plain

この時点で3つの結晶はばらばらの座標にいることが分かります。

これを重ね合わせて見やすくしていきます。

align 6fs9, 6fs8

align 6fs6, 6fs8

のようにコマンド入力すると6fs9と6fs6が6fs8に重なります。

align [object panel name A], [object panel name B]

と入力することで、AをBに重ね合わせるということです。

次に

center

と入力して、画面の中心にタンパクをもってきます。

f:id:keetane:20190207223814p:plain

はい、全然重なってませんね。

通常、タンパクは2対称で結晶が得られることが多いそうなんですが、タンパクによってはもっとたくさん対称構造が得られるそうです。

一旦、右上のallを左クリックすると表示が全て消えます。

その後、6fs8を左クリックしてactiveにすると、6fs8のみが表示されます。

同じ要領で、観察したいobjectを左クリックでactiveにして観察・比較します。

今回は6fs8が2対称、6fs9がchain A(多分)、6fs6は6対称のようです。(下の画像は6fs6)

f:id:keetane:20190207224559p:plain

対称といいましたが、A鎖とB鎖は似ているだけで部分的には異なることもよくあります。

今回はタンパク間で簡単な比較をしたいだけなので、3つのタンパクのA鎖だけを比較しようと思います。

remove chain B

とコマンドを入力すると、全てのobject panelのB鎖が除去されます。

remove (chain C,D,E,F)

とコマンドを入力して、残りのタンパクもまとめて除去しました。

f:id:keetane:20190207230003p:plain

この時点で、6fs6のA鎖だけが重なっていません。

alignmentし直す必要がありますが、次はコマンド以外の方法も使ってみます。

右のobject panelの6fs8の隣にあるAという文字を左クリックすると、actionの項目が表示されます。

その中からalignにカーソルを合わせると、何をどこにalignするか選べます。

今回は全てのobject panelを6fs8に重ねたいので、all to this (*/CA)を選択します。

f:id:keetane:20190207230457p:plain

重なったのを確認した後、centerとコマンド入力してタンパクを画面中央に移動させます。

新たにaln_all_to_6fs8というobject panelも生成しましたが、今回は使わないので非表示にします。

f:id:keetane:20190207230831p:plain

ピンチアウトで拡大したり、ドラッグで回転することが出来ます。

画面の中心に持ってきたい部分でCommand+左クリックすると中心に移動できます。

大きめの球体は金属、赤いxは水です。何の金属かは知らないので文献を読んでみてください(←調べておけよ)。

↑Scientific Reportは無料で読めるそうです。@torusengokuさんありがとうございます。

3つのカルボニルが2つの金属にキレートしてますね。

僕はリボンの透過性を上げておく方が見やすいので、defaultで設定しています。

set cartoon_transparency, 0.8

とコマンド入力するとリボンの透過性をあげられます。

僕は面倒なのでdefault設定にしています。

file→pymolrcにコマンドを入力しておくとdefault設定に出来ます。

 

さて、件のI38Tの変異を見ていきましょう。I38Tという表記は、38残基目のIsoleucineがThereonineに変異したということです。

右下にビデオのボタンみたいなのがありますが、その一つの「S」をクリックします。

このボタンはタンパクのSequenceを表示切り替えです。5残基おきに数字がふられていますね。

6fs8の配列の36番のすぐ右下にあるIが、6fs9の配列の同じ位置でTになっていますよね。あ、これだ。と思ってそれぞれクリックしてください。

同時選択する際に、Shiftを押さなくてもクリックすれば次々に選択になるのがPymolの仕様です。

それぞれをクリックすると、Xofluzaの左下に新たに赤い四角い選択部分と、それに対応する(sele)というobject panelが右側に生成されました。x印は水なので混同しないでください。

ちなみに水をsphere表示にすることも出来ますが、今回は割愛してます。

コマンド自体は、sele solvent, solのあとに、show sphere, solvent_とかで出来ます。

f:id:keetane:20190210203724p:plain

今はタンパクがリボン表示されているだけで、実際は リボンの上に各アミノ酸側鎖が存在しています。

Xofluzaの左下に先ほど選択した残基が存在していて、それを選択した状態になっています。

ここで、show line, sele と入力してみましょう。6fs8と6fs9について選択部分のアミノ酸がline表示されました。

show line, resi38 と入力してもほぼ同様なのですが、このコマンドでは全てのobject panelに適用されてしまうので、今回は必要なさそうな6fs6の38番残基までlineが表示されてしまいます。

 

ここからは各結晶構造について相互作用を見ていきたいと思います。

まず、object panelのallをクリックした後、6fs8をクリックして結晶構造を一つだけactiveにします。

続いて、6fs8のobject panel右側の「A」 (action)をクリックし、preset → ligand sites → cartoon の順にマウスオーバーしてクリックします。

すると、6fs8のリガンドと水について静電相互作用距離にある相互作用とアミノ酸残基が表示されます。

右側には新たに6fs8_pol_contsというobject panelが生成されました。このpanelのみをactiveにしてもらえれば分かりますが、今回新たに表示された相互作用の黄色い点線だけのobject panelです。

f:id:keetane:20190210212430p:plain

注意してほしいこととして、このpresetで表示される相互作用の点線は、範囲内にあるものを全て表示しているだけで、適切な距離や角度にあるかどうかは自分で確認する必要があります。

例えばXofluzaの1,2-diketone構造ですが、それぞれのカルボニルがなんと5つの相互作用を示しているように見えますが、lone pair electronsは2対しかないので、基本的には2つしか相互作用をとらないはずです。また、その適切な角度はC=Oに対して120° ずつであることは教科書的にご存知の通りです。ちなみに、ベストでなくともそれ以外の相互作用角度も取りえます。

また、近傍にある金属と全く相互作用していませんが、普通に考えてカルボニルが金属にキレートしそうです。

ここで、右下にある緑色字のMouse Modeという項目に注目してください。defaultは多分3-Button Viewingではないでしょうか。ここは、それぞれのマウスアクションが示されています。例えばSnglClkのLは+/-ですが、左クリックを1回クリックすると選択と非選択の切り替えというアクションが割り当てられている状態です。

f:id:keetane:20190210214242p:plain

ちなみに、その下にある緑色字のSelectingは選択対象の項目で、赤字が選択対象単位を示しています。図では赤字がResiduesなので、タンパクをクリックすれば該当アミノ酸残基が一つ選択されます。赤字をクリックしていくと、chain→segmentsといった具合に順次変わっていきます。何回かクリックしてAtomにしておいてください。

続いて3- button viewingをクリックして、Mouse Modeを3-button Editingに変更してください。すると、先ほどのSnglClk+Lの項目がPkAtに切り替わりました。これはPick Atomというアクションで、今まで使っていた選択とはちょっと違うMouse Actionです。早速使ってみましょう。

f:id:keetane:20190210214627p:plain

まず、左側画面にある金属のうち、左側の金属を左クリックすると、金属原子がテープみたいなもので囲まれ、右側に4つの新たなObject panelが生成されました。

f:id:keetane:20190210214847p:plain

続いて、真ん中のカルボニル酸素原子を左クリックすると酸素原子が2重のテープで囲まれ、2原子間の距離2.2Aが表示されました。めちゃ近いですね。

f:id:keetane:20190210215215p:plain

続いてカルボニル炭素原子をクリックすると、炭素原子が3重のテープで囲まれ、3原子間の角度110.6° が表示されました。カルボニルの相互作用角度としてはいい感じですね。

f:id:keetane:20190210215421p:plain

最後に、3つのカルボニルのうち左側のカルボニル炭素原子をクリックすると、これが4重テープで囲まれて、4原子を結んだ時の2面角-3.2° が表示されました。sp2軌道なので、金属原子がその平面上にあるのはもちろん好ましいと言えるはずです。

f:id:keetane:20190210215710p:plain

以上の解析から、少なくとも左側の金属原子はXofluzaから配位を受けていると考えて間違いなさそうです。これってpresetで表示されないんですね。僕も今回初めて知りました(←おいおい)。

 

さて、こんな感じで件のI38Tの部分はどんな感じか見ていきましょう。先ほどと同じ要領で上にあるタンパクのSequenctからI38を選択して、この部分を拡大してみましょう。

f:id:keetane:20190210220238p:plain

I38の近くにはXofluzaのベンゼン環がありますが、静電相互作用しないので黄色い点線は何も表示されていません。I38の主鎖からは近傍の水へ、さらにこの水は近傍のHistidineと相互作用していますね。周辺残基を把握してませんが、タンパクの脂溶性領域に対してXofluzaも脂溶性を配置することで分散力を獲得しているんでしょうね。確認のために、右側にある(sele)のObject panelの右側にある「A」(action)を左クリックし、modify→around→atoms around 4Aの順番にマウスオーバーして左クリックてみます。

f:id:keetane:20190210220910p:plain

すると、I38の4A範囲内にある原子が(sele)として選択された状態になります。Xofluzaのベンゼン環が選択されたので、やはりこの辺が分散力を獲得していそうです。

f:id:keetane:20190210221046p:plain

ではI38Tの変異ではどうなるのでしょうか。object panelのallをクリックして一旦全て非表示にしたのち、変異体結晶構造の6fs9について、次に見ていきましょう。

慣れた人は一目で分かると思いますが、I38Tの変異では脂溶性残基のIsoleucineから極性残基のThreonineに変異しています。つまり、先ほど脂溶性によって獲得したと思われる分散力が、タンパクの変異によって失われ、その結果活性が低下すると思われます。前述のガイドラインには感受性が50倍低下するとあるので、この辺に低下の起因がありそうですね。

f:id:keetane:20190210221757p:plain

また、ガイドラインには感受性の他にウィルス増殖能の低下についても記載がありました。これは、変異によりXofluzaの耐性を獲得したものの、その構造変化による影響でタンパクの機能に影響が出たと推測されます。

私が今仕事で扱っているターゲットも脂溶性領域に点変異を入れると、構造変化を起こしてタンパクが不安定化したり、その結果酵素活性そのものが消失してしまったそうです。具体的にどんな変異だったかは忘れましたが、確かIxLくらいのわずかな変異でも活性消失していたと思います。Cap-dependent endonucleaseは脂溶性残基から極性残基に変異しているにも関わらず増殖能の低下に留まっているので、やはり人為的な変異よりも精度が高いんだなぁと感心しました。

 

以上、最近話題のXofluzaについて、 SBDDを始めてもうすぐ1年の中堅メドケムが自宅でPymol使って10分くらいで出来る解析を紹介してみました。文章化すると大変に感じますが、構造生物学の方から見れば大したことはしていません。PymolさえPCに入れていれば、文献がなくてもtwitterのTLとPDBだけで結構予想が出来ます。SBDDに興味のある方にとって、Scientificに何が起こったのか理解の一助になれば幸いです。

 

あとがき

 

@fmkz__さんがFMOの記事を共有してくれました。考察ドンピシャで感無量です。

時事ネタは同時多発的に考察があって勉強になるので、これからも続けたいな。