Deucravacitinibと2つのメチル基

久々に書く気になったのでこちらの続きです。

APIで取得したChEMBLのデータを整える - おじさんちのクソゲ

Deucravacitinibは2022.9に承認されたTYK2に対するアロステリック阻害剤で、成人の中等度から重症の尋常性乾癬を適応としているそうです。
なんでも、JH2特異的に結合することでkinase活性をmodulateするんだとか。

JH2ってなに?

the JAKs possess two near-identical phosphate-transferring domains. One domain exhibits the kinase activity, while the other negatively regulates the kinase activity of the first. Janus kinase - Wikipedia

とのことで、リン酸転移ドメインは二つあるけど使ってるのは一個で、2個目のJH2はフェイクってことみたいです。 DeucravacitinibはフェイクのJH2に結合するにも関わらず阻害活性を示すことから、アロステリック阻害剤ということみたいです。

先日の検索結果から新しいものを少し読んでみると、面白い内容でした。

https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.jmedchem.9b00444

残念ながらフリーでは読めませんでしたが、孫引きまで含めて概要は下記の通りでした。
1. BMSの社内ライブラリ由来
2. cell baseのSPAで周辺化合物を評価してユニークな阻害活性を見出す
3. 活性がないはずのJH2に対して強くbindingしていた
4. メチル基1個でJAK1~3, TYK2のJH1阻害活性が完全に切れた(!)   一つ目のメチル
5. 正確なMoAは不明だが、実験的な事実としてDeucravaciinibはTYK2の不活性化状態を安定化してるっぽい (間違ってたらごめんなさい)
6. catalityc pocketの向きに必要な置換基をメチルスルホン > メトキシ 
 二つ目のメチル
7. 代謝された脱メチル体は選択性が低いことから毒性懸念浮上 (それでもぱっと見は他よりよい)
8. D化メチル体によって代謝物抑制
9. 母核変換でPK改善

というわけで候補品に至ったようです。ちなみに1で得た他の骨格を進めたNimbus子会社を武田が買ったとかなんとか。

自己免疫疾患に新規作用機序の「TYK2阻害薬」―ブリストルが乾癬で承認取得、武田は買収で参入 | AnswersNews

ちなみにDeucravacitinibは重水素が3つも入ってるんですが、ケミストなら代謝安定性改善したかったのかな?とか考えちゃいます。
私自身トライしてみて全く改善したことがなかったのですが、特定の代謝物を抑制する効果はみられるんだとか。

確かに普段の評価では化合物の残存を見ているわけですが、望まない副生物をきちんと抑えることができれば目的を達成できることもあるわけです。
BMSの報告には正にその記述がありました。Deuterium kinetic isotope effectというらしいです。

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/bi972266x

上記以外にもアミドのHBDを減らすためのヘテロ環への変換や、置換基探索で芳香環をc-Pr基に変換できたことへの考察など、探索から最適化までのエッセンスが詰まった全体の仕事となっています。久しぶりにメドケムが仕事してんな!っていう論文を読んだ気がしました。

やる気が出たら、次回データ解析後編に続きます。。