Dear Pymol Beginners 2 -リガンドの周辺を観察してみたり-

Grüezi,

 

前回の記事の手直しも済んでませんが,勢いのある内に次に行こうと思います(済みました23/Jan/2020).

前回はダウンロードしたPDBファイルを見やすく整えるショートカットを紹介したわけですが(←前回言えよ),今回はタンパクやリガンドの周辺環境の可視化に関するショートカットを,実例を踏まえながら紹介したいと思います.

 

本記事で学びたいことは以下の通りです.

-アミノ酸残基や水分子,リガンドの指定の仕方

-指定した原子団の表示変更の仕方

-指定した原子団から新規オブジェクトを作成する方法

ついでに,

-GFPはなぜ蛍光発色団として機能するのか

です.

Pymol自体はコマンドなんて使えなくてもマウスでポチポチすれば十分便利に使えるので,知らなくても全然大丈夫です.

 

本日出てくるコマンドは以下の通りです.

もっと便利に使いこなせるようになりたい時に読みたい

Pymol Wiki -Algebra-

 

では実践です.

fetch 1EMA

GFPをダウンロードしましょう.

f:id:keetane:20200121063531p:plain



PymolのDefaultだと思いますが,タンパクはCartoonで,例えばリガンドや結晶化に使った添加剤のような有機物はStickで表示されます.GFPの中心部分に何やらリガンドらしき有機物がありますが,何を隠そう,この有機物と認識されている部分がGFPの蛍光の正体です.詳細はChemStationさんの記事にお願いするとして,GFPの内部という特異な環境でSer65-Tyr66-Gly67の3残基が環化-酸化されることで蛍光を示す発色団を形成します.

 

hide sticks

発色団が隠れます.

続いて発色団を復元してみましょう.

 

show sticks

f:id:keetane:20200119061618p:plain!!

 


はい,出来ませんねorz.

このように,Pymolのコマンドでは指定しない限り全オブジェクトに一括で指令してしまいます.

 

hide sticks

show sticks, organic

zoom organic

発色団のみをStick表示にしてみましょう.cartoonと水分子だけの画面に戻ったはずですね.

下段のコマンドは下記のような英語をイメージすれば分かりやすいかもしれません.

show sticks of the organic

そしてzoom コマンドで発色団に近寄りました.

show spheres, organic

f:id:keetane:20200121064451p:plain



コマンドの意味はもちろん”show spheres of the organic”

このコマンドによって発色団の原子をボール表示にすることが出来ます.このままだとspace-fillingモデルってやつですね.

 

set sphere_scale, 0.2

f:id:keetane:20200121064537p:plain

デフォルトのままだとBallが大きすぎるので,いわゆるBall and Stick modelというやつに変更するために,setコマンドでサイズを小さく変更しています.

set the scale (size) of the spheres for 0.2 という英文だとイメージしやすいですかね?覚えるのが面倒だと思うので,set sphまで入力した後にtabキーを押してみましょう.すると,External GUIにコマンドの候補が表示されます.候補が一つしかない場合は自動入力までしてくれます.困った時はtabを押してみるのも方法の一つです.

show lines, byres organic around 5

zoom organic around 10

f:id:keetane:20200121064745p:plain

show lineは先ほどのSticksと同じです.これらのコマンドは" , "の後にどの部分を表示するか指定することが出来ます.英語で書くと何となく意味がわかるでしょうか.

show lines of the residues, which is around (within) 5Å of the organic

みたいな意味です.つまりbyresは周辺残基という意味ですね.コマンドの方が実際の英文法よりも後付け感が強く感じるのは私だけでしょうか.

そして発色団とその周辺を観察したいので,下段のzoomコマンドで拡大しました.対象を大きくすることで縮小表示することもできます.

zoomとcenterは似ていますが,対象が右側サイドバーに表示されているオブジェクトなのか ,GUI内の指定部分なのかで使い方が異なります.(ハンターXハンターのスペル@GI編みたいな説明だな...)

Cartoonが邪魔で少し見づらいですか?

set cartoon_transparency, 0.7

f:id:keetane:20200121065019p:plain

数字を1>で大きくすると透けるので,少し見やすくなると思います.1<の値を入力すると全部透けるだけです.

水分子がチラついて集中出来ませんか?

 

extract sol, solvent

f:id:keetane:20200121065229p:plain

extractコマンドはオブジェクトを生成するコマンドの一つで,"solvent"を抽出して"sol"というオブジェクトを生成します.

extract the solvent to create an object "sol" みたいな意味になります.

同様に"select", "create", "copy_to"もオブジェクトを生成するコマンドです.

ちなみにremove solventというコマンドを使うと,全オブジェクトから水分子が一斉に削除されます.後で見たかったりするので,extract コマンドでオブジェクトとして保存しておく方が無難だと思います.

 

disable sol

f:id:keetane:20200121065405p:plain

disableコマンドは指定したオブジェクトを非表示にします.反対に表示したい場合はenableを使います.単発ではあまり便利に感じないかもしれませんが,複数オブジェクトを作成表示した後に,単一オブジェクトに切り替えたい時はdisable ! [target object]が便利です.マウスをたくさんクリックせずに済みます.

select 5A, organic around 5

f:id:keetane:20200121065749p:plain

select コマンドで対象(選択)部分の新規selectionオブジェクトを作成します.

マウスを使って特定の原子を選択していった場合は(sele)というオブジェクトが作成されますが,特定の選択部分についてオブジェクトとして保存できるということです.

これが出来ると何の役に立つんでしょうか?例えば...

label 5A and name ca, "%s%s" % (resi, resn)

f:id:keetane:20200121065903p:plain

labelコマンドを使って,発色団の5Å以内にある残基名を残基番号を表示することが出来ます.残念ながら,このコマンドは正直覚えるのが私は面倒です.そこで,このコマンドはサイドバー右側のL(Label)→residues (one letter)に譲ろうと思います.

 

create 5A, byres organic around 5

f:id:keetane:20200121070042p:plain

上述のselect コマンドと似ていますが,create コマンドは対象の新規オブジェクトを作成します.実際には下記のようなduplicateの方が直感的にしっくりくるような気もします.

create an duplicant object of the residue, which is around 5A of the organic

 disable 1EMA

f:id:keetane:20200121070242p:plain

上述のcreate + aroundコマンドでは,発色団の周辺残基しかされていないはずです.そこで次のようなコマンドで発色団自体を複製します.

copy_to 5A, organic

f:id:keetane:20200121070358p:plain

コマンドが2つだと何だか二度手間に感じますよね.もちろん一発で発色団+周辺5Å

内残基のオブジェクトを作れます.そう,expandならね.

create 5Aa, byres organic expand 5

次に,発色団周辺について,もう少し詳しく見てみましょう.

 

disable all 

enable 5Aa

zoom organic

f:id:keetane:20200121070916p:plain

GUI上を左クリックでドラッグして少し見やすくすると,64PHEから発色団が伸びて,68VALに再び戻っていることがわかると思います.

ついでに実際のSequenceも見ておきましょう.

 

set seq_view, 1

f:id:keetane:20200121071040p:plain

右下のSをクリックするだけで同じことが出来ますが,一応の紹介です.1でON,0でOFFになります.

Sequence viewerには配列と該当するアミノ酸残基が一文字表記されていますが,GFPの発色団はCROという表記で登録されているみたいですね.さてここで問題です.この発色団に該当する残基の新規オブジェクトを作成するコマンドは何でしょうか?

正解は...

 

create CRO, resi 65-67

create cro, resn CRO

あくまで一例ですが,こんな感じになります.resiは対象の残基番号を指定できます.一方,resnは残基名を指定できます.例えば,残基名としてHOHを指定すると,水,すなわちsolventを指定するのと同義になります.

 

reinitialize settings

ついでなんですが,cartoonの透過具合やsphereの大きさなど,やっぱ初期値に戻したい!みたいな時はreinitialize settingsで初期値に戻せます.単語の冒頭だけ覚えてtabで候補を出してくのをオススメします.

 

今回は以上です.

自分の備忘録には今回の形式がいいかも.

そういえばさっき気づいたんですが,私のpymolのライセンスが切れてますね...

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