E-notebookの話

企業では既に導入済みのところも多いかもしれませんが,実験ノートの電子化は個人的には積極的に進めるべき事項だと思っています.

手書きの方が多くの情報を残しやすいという意見もありますが,それは手書きノートをアップロードすればいいだけの話で,社内で実施済みの実験情報を全員で共有出来ることに真価があると考えているからです.

下記に,現在補足している情報を簡単にだけまとめておきます.

 

Signals Notebook by Perkin Elmer

https://www.perkinelmer.co.uk/category/signals-notebook

今のところ最大手でしょうか?Perkin Elmerの手がけるクラウド型E-notebookです.

テキストはもちろん,構造検索も出来るので,ユーザー間で実験情報を検索したり共有することが出来ます.

Word,Excel,PDF,画像,その他複数のファイル形式をアップロード出来るので,測定データの保管も非常に簡単です.

クラウド型で出来るか知りませんが,私が勤める某内資製薬企業ではクライアント型をカスタマイズして採用しています.

例えば法規制物質チェック機能や化合物登録機能なんかがクライアント型で実装できます.その代わり,ノートのアプリケーション自体が非常に重くなります.

ETHで個人利用向けクラウド型のトライアル版を試しに利用したのですが,動作が軽くて(慣れれば)結構使い勝手がいいように感じました.最大の課題は導入コストだとボスが言ってました.利用継続の資金が尽きた時にデータが保管されるかどうかなども気になってるようです.

 

Accelrys Notebook

何年か前にケムステ さんで紹介されていたんですが,今はリンク切れになってるみたいです.

https://www.chem-station.com/blog/2014/12/accelrys-notebook.html

最新の情報はこちらでしょうか?

http://ls.ctc-g.co.jp/products/accelrys/accelrys_notebook.html

ぱっと見で日本新薬さんが導入してるみたいですね.使い勝手はどうなんでしょうか.

化合物管理システムや法規制物質のチェック機能も同様に別途提供してるみたいなので,企業向けのE-notebookと言えるかもしれません.

 

Studies Notebook by Dotmatics

https://www.dotmatics.com/products/studies-notebook

ETHでサイトライセンスを持っているE-notebookですが,ほとんど誰も使ってないみたいです(爆

構造式やフォントが異常に小さいので視認性が非常に悪いですし,実験ノートとして情報が分散するようなレイアウトになっているので結構残念な仕様だなと個人的にも思いました,構造検索とかも多分出来ません.

どちらかというとマテリアルやバイオ向けのノートを提供してるんですかね?アストラゼネカに神経分野で使われてますみたいな宣伝が書いてありました.

Dotmatics以外もそうですが,クラウド型だとレイアウトの変更などマイナーチェンジは比較的ロータスクで出来るみたいです.ETHの担当者が今度ヒアリングを受けるそうで,私が出した要望を伝えてもらえることになりました.その辺の改善を待ってる時間は私にはなさそうですが...

 

Chemotion

https://www.chemotion.net/

今日初めて聞いたのですが,ドイツのスタートアップで無償のオープンソースとして開発をしているクラウド型のE-notebookだそうです.

オープンソースなだけあって,Signals Notebookと比べると使い勝手はあまりよくありませんでした.ただ,構造検索なんかは出来るので結構すごいなと思いました.

開発資金が尽きた時のデータ保管なんかがどうなるのか気になるところですが,とりあえず10年分くらいの資金は今のところあるそうです.

 

どのノートでもですが,過去の実験記録のアーカイブが手作業でしか出来ないのも,ちょっと残念です,

ラボの新参者としては,過去の記録をE-notebookでガンガン検索しながら無駄なく実験したい,というニーズから今回少し調査したんですが,未来に向けては非常に建設的でも,これまでの実験情報を最大限活用することは,どのノートでもまだ難しいですね.

 

Data Integrationというソリューションも最近では開発されています.

簡単にいうと,あるプラットフォームから,社内+外部データベースの情報を統合して検索が出来るシステムです.例えば,Reaxysと社内のデータベースを統合することで,E-notebookから外部情報に加えて社内実施例はもちろん,アッセイ情報なんかも同一のプラットフォームから検索/閲覧することが出来るそうです.という営業を3年くらい前にElsevierの方から受けました.莫大な費用が勿論必要なので,弊社では当然?導入してませんが,MerckやGSK(だったかな?)などのメガファーマは既に導入しているそうです.

 

インターネットの発達によって多くの情報にアクセスは出来ますが,必要な情報を的確に使いこなすには,それだけでビジネスが成り立つくらいにはまだ課題があります.

久しぶりの手書きノートでめんどくさい思いをしているので,もっと低コストで普及してほしいなと願ってます.

 

2019/08/09 追記

Mbook

https://mestrelab.com/software/mbook/

NMRの解析ソフトとしてケムステでも紹介されていたMestlab Researchと言う会社が,ELNも提供していました.値段も結構リーズナブルじゃないでしょうか.

同じラボの隣の部屋の人が使っているのを見せてもらったのですが,オンラインベースなので動作はやはり軽く,操作性は良さそうでした.グループメンバーとのノート共有や,構造検索なんかも出来ていました.PerkinElmer以外なら,これが一番良さそうな印象です.

 

2020/05/08追記

最近気になってるのはBioviaのこちら.

E-Workbook Chemistry

http://ls.ctc-g.co.jp/products/idbs/e-workbook_chemistry.html

クラウドだからブラウザベースで動作が軽いし,法規制物質のチェックにも対応しているとのこと.

こういうのは提供元のデフォルトが一番シンプルで使いやすかったりするので,企業側の要望にあわせてカスタマイズするより,使用者に適正に教育したり,その範囲内でやりたいことをどう実現するか考えた方が将来的にはプラスだよなぁと思ったりします.